白い

嘘と事実が7:3です

恩師へ贈る感謝の手紙

僕の担任は浜田という男だ。身の回りの登場人物が男ばかりで嫌になる。

浜田は僕が高校二年生の頃から、担任を請け負っている。生徒が男だけなら担任も男。男やもめとはこういう状況を言うのだろう。つくづく嫌になる。

まず浜田はチンパンジーによく似ている。もちろん似ているだけで人間だ。僕たちの大切な恩師をモンキーティーチャー浜田なんて呼ばないで頂きたい。ただ確かに似ているのは事実だし、宮根誠司とチンパンジーを混ぜ合わせたような外見をしているのもまた事実。首から上がチンパンジーの宮根を想像して頂ければ概ね間違いではない。そんな妖怪が僕たちの担任だ。

彼は生徒指導の厳しさで教育委員会から一定の評価を受けているともっぱらの噂の男である。生徒からの心なき声の中には「委員会のおじさんにケツを売って評価を稼いでいる」という根も葉もないものまであった。全くひどい話だ。まぁ言い出したのは僕だが。

そんな指導し甲斐のある可愛い生徒たちを、2年間も面倒を見る羽目になってしまった浜田だが、ここ最近どうも様子がおかしい。特に奇行に走っているわけでも無いが、何やら今までに比べるとそう、有体にいえば甘くなったのだ。優しい言葉が増えた、生活指導がずいぶんと緩くなった、あげていけばきりが無いが、以前の彼からするとまるで考えられない言動の数々だった。気持ち悪。

両親が事故で死んだとか、そういうショッキングな出来事があったならば唐突に態度が変わるというのも分かる。しかし彼の人生がそんな鮮やかなドラマで彩られたという話は聞かないので、恐らく僕たちの指導に心身共に疲れ果てたという説が最も有力だろう。なんだか可哀想なので、この場を借りて彼に謝罪の手紙をしたためようと思う。

 

浜田先生へ

いつも愛のあるご指導、誠にありがとうございます。本日は3つほど申し上げたいことがありまして、筆を取らせて頂いた次第です。

まず一つ目は、浜田先生のお名前を「浜田→浜田氏→中田氏→中出し」というクソしょうもない変換で玩具にしていることです。最近では「Mr.膣内射精」という一見意味の分からない呼称まで生まれる始末です。不思議に思うかも知れませんが、貴方の事です。クラスメイトには私の方からキツく言っておきますので、どうかご容赦ください。

2つ目ですが、浜田先生のファッションであられるヘアワックスでツンツンに立たせた髪型を、あろうことか「歳食ったフグ」と形容していることです。浜田先生は弱冠34歳という年齢でおられるのに「歳食ったフグ」では失礼が過ぎますね。これからはしっかりと「逞しいヤマアラシ」と呼ばせて頂きます。こちらも大変申し訳ありませんでした。

3つ目、最後となりますがこちらは謝罪ではなくお祝いとなります。浜田先生は最近ご結婚なされたそうですね。聞くところによると奥様のお腹には、第一子となる新しい命が宿っているとか。一生徒の私ではございますが、お祝いの言葉を述べさせて頂きます。チンパンジーと人間の子となる浜田先生のお子さん。オスかメスかはまだ分かりませんが、浜田先生のお子さんならば、きっと丈夫な北京原人が生まれてきてくれることでしょう。早くもこちらに石槍を投げつけてくる様子が目に浮かぶようです。母子ともに健康に生まれてくれる事を心よりお祈りしています。

それでは長々と失礼致しました。これにて結びとさせて頂きます。これからも私たちにご指導ご鞭撻の程、どうかよろしくお願い致します。

敬具

 

完璧だ。これを見せたら浜田もきっと喜んでくれるだろう。ところでいま調べたところによると、チンパンジーの握力って200kgあるらしいですね。日本国内で顔面を握り潰された怪死体が発見されたら、きっと僕です。ニュースに出てたらそっとお祈りしといてください。

さようなら