白い

嘘と事実が7:3です

食べログ1.9の店

服が買いたい、旅行に行きたい、映画が見たい。

起因はそれぞれだけど欲望を満たすためには何が必要か。そう、お金ですね。身も蓋も無いが「夢」とか「希望」とかそういう概念的な原動力よりも先に、我々に立ちはだかるのは金銭というデカいデカい壁である。生まれてから今日に至るまで金に首を絞められて生きてきた。身近な疫病神とはよく言ったものだ。

それではその疫病神をどうやって手元に引き寄せるか。借金?クレジットカード?全部違う。その答えがトップタイを切る奴はウシジマくんの住人だけだ。常識を持った人間ならばこれが真っ先に出るはず。正解は「お仕事」です。僕のような学生ならば「アルバイト」とも言い換えられる。決められた職務をこなして月なり時なりで給金をせしめる、そんな作業だ。長い枕になったが今回はアルバイトのお話です。

 

僕は片田舎のチェーンレストランで働いている。行き所をなくしたジジイとババアか子連れの客から日々金を毟り取っています。無意味に高級なのも田舎特有だ。10分で出る飯に三千円の値段をつけるあたりナチュラルに狂っている。

僕は友人の津々木という男から紹介されて、こちらのお店でバイトを始めた。誘われたとき僕は回転寿司屋を辞めて貯金を切り崩しながら生活していた。そろそろ貯金も底が見えるな、という時に「え?白谷いま無職?うち緩いから入っちゃえよ!」とアホ丸出しで誘われたので、こちらもアホ丸出しで「緩いの?最高じゃん!」と面接に向かった次第だ。誘うにアホに乗っかるアホ、これで採用されたのだから店のほうも中々アホだ。社会は意外とアホで出来ている。

さて、肝心のバイトだがこれがまた緩かった。どれくらい緩いかは筆舌にし難いが、例を挙げるならば「なんか今日キモいからバイト休むわ」という謎でしかない休みの口実がまかり通るくらい緩い。ある時はバイト中に調理場の奥まった場所に先輩が固まっていたので、覗いてみるとモンストのマルチプレイしてた。最早緩いどころの話ではない。荒れてる中学校かよ。

そんな無法地帯だったバイト先だがここ最近、より正確には3月に入ってから急激に苛烈になった。理由はあまりにも簡潔である。「主力メンバーの退職」、だ。アルバイトに店の営業が頼り切りになりがち、という田舎あるあるが存在する。僕のバイト先も御多分に漏れずでバイトがいないと店が回らない有様だ。挙句に主力となっているメンバーは軒並み就活生だった。3月という就職の季節、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。

シフト穴だらけでしたね。仕事も穴だらけでした。店全然回らん。なにこれ。

注文は山積み、皿も山積み、客はたくさん、材料は0。地獄絵図とはまさしくこのこと。自転車で10分先の場所に地獄、爆誕。まったくもっておめでたい限りだ。社員の頭とかな。

当然残業も増える。30分ほど残らされることなどザラだ。社会的立場さえ無ければ皿の山など薙ぎ倒して店に火を放っている。「客ども死すべし!社員ども死すべし!」とか喚きながら。

当然、打てる方策は尽くしている。辞める、という最終兵器まで持ち出した。社員に敢え無く叩き落された。津々木に至っては昨年の9月から辞める辞めると言っているが、いまだに残されている。本当に可哀想。ブラックに飲み込まれている典型だ。「肌もブラックだから辞めれないんじゃない?」とかいってごめん。今度美白クリーム買ってあげよう。

兎にも角にもブラック中のブラック、もはや漆黒とすら言える我が店。アルバイトである僕たちもパートのおばさんも社員ですらも疲弊しきっている。働いている人間が誰一人として得をしていない。胴元のオーナーである地主のジジイと企業本部の人間ぐらいしか笑ってないだろう。全員血祭りにあげて大通りに転がしてやりたいところだ。

ここ最近は食べログを使って店を酷評することに命を燃やしている。

「ゴキブリ入ってました。最悪な気分です」

「注文してから出てくるまでに13時間掛かりました」

「津々木っていう店員が黒くて不愉快です」

「社員殺す」

概ねこんな感じで我が店の食べログを荒らしまわっている。その甲斐あってか、ここ最近はうちの店の評価を1.9という数値まで落とすことに成功した。このまま誹謗中傷を書き連ねて地の底まで評価を叩き落してやる。今はそんな歪んだ欲でいっぱいです僕は。満願成就した暁には、店を潰して子供たちの公園に変えてやりますよ。子供たちの未来の為に。

それでは。